「完全即興」?「即興演奏」? フリー・インプロヴィゼーション、呼び方あれこれ

今回は音楽シーンから見たフリー・インプロヴィゼーションに焦点をあてています。【はじめに】フリー・インプロヴィゼーションとは? の記事では、フリー・インプロヴィゼーションを下記のような図に起こしました。

しかし困ったことに、音楽シーンにおいて「フリー・インプロ」は、さまざまな呼び方をされています。いったい、私たちはどれを使えばいいのでしょう?

インプロ?即興?完全即興?

フリー・インプロヴィゼーションは、どんなふうに呼ばれているのか?実際に、筆者が見聞きした呼びかたを挙げてみましょう。

  • 「フリー・インプロ」
  • 「インプロ」
  • 「即興演奏」
  • 「即興」
  • 「自由即興」
  • 「完全即興演奏」などなど……

ここでちょっと注意したいことが、シンプルに「即興演奏」と呼ぶ人たちもいる、ということです。

これについては、ジャズや踊り──言語的な即興*1をしている人たちの立場に立ってみるのがわかりやすいかもしれません。デレク・ベイリーの一文を引用してみましょう。

彼らは“フラメンコを演奏する”のであり、“ジャズを演奏する”のだ。…中略…インプロヴィゼーションという言葉を使うことに明らかに抵抗があり、即興演奏家によっては積極的な反感を表明している。

*太字は引用者による

/デレク・ベイリー著「Improvisation──即興演奏の彼方へ」より

つまり、フラメンコやジャズのプレイヤーには、そもそも即興的な表現をしているつもりがない可能性もあるのですね。

伝統的な言語を習得し、それらを用いて表現するプレイヤー。

対して、伝統的な言語に(おそらく)縛られたくない、フリー・インプロヴィゼーションを実演する音楽家たち。

だから後者の人々は、ごく自然に自分たちの演奏を「即興」と呼ぶのかもしれません。(実際、日常会話なら「フリー・インプロ」より「即興」と呼ぶ方が簡単ではあります)

*1 「言語的な即興演奏」については、こちらの記事をご覧ください。

Wikipediaも国際的に迷走する「フリー・インプロヴィゼーション」

ついでにWikipediaで「フリー・インプロヴィゼーション(日)」「Free improvisation(英)」「Improvisation libre(仏)」と検索してみましょう。すると結果は以下のようになります。

さあ、奇妙ですね。

入力した通り「Free improvisation」の記事がヒットするのは、英語のWikipediaだけ。日本語だとただの「即興演奏」がヒットし、フランス語だと「Musique improvisée」、つまり即興された音楽あるいは即興的音楽という項目が出てきます。

さらに解説を読むと、日本語の記事には「自由即興」という単語が出てきたり、フランス語の記事だと「Musique improvisée」「Improvisation libre」がイコールであるかのように書かれていたり……もう、ちんぷんかんぷんです。(そもそも日本語とフランス語の記事には『ソースが不十分です』という警告が登場してしまいます)

当メディアにおける「フリー・インプロヴィゼーション」と「即興演奏」

このように、呼び方ひとつ取っても、厄介なフリー・インプロヴィゼーション。

そこで当メディアでは、混乱を避けるためにこのような使い分けを提案します。

下記の図に表した即興演奏を指す場合は「フリー・インプロヴィゼーション」を

上記以外──すなわち、フリー・インプロヴィゼーションを含むさまざまな即興的音楽行為を、総称する場合は「即興演奏」を。

そして、音楽に限定せず、即興を行う行為自体を総称する場合は「即興」を使用しています。

これは、便宜上の試みです。「フリー・インプロヴィゼーション」あるいは「即興演奏」そのものを整理し、定義しよう、という試みは、あえて行いません。整理し、明確に定義しようとすればするほど、フリー・インプロヴィゼーション、そして即興演奏は、煩雑で縁遠い世界のものになってしまうからです。

「この人の『即興演奏』は、どんな即興演奏だろう?」

もしあなたが誰かと会話していて、「フリー・インプロ」や「即興演奏」ということばが出てきた時には、ぜひともアンテナを立ててみてください。──この人は、どんな即興演奏をイメージしているのかな?

もしかしたら、あなたが思いもかけなかった「即興演奏」の世界が広がるかもしれません。くれぐれも、そこで相手を問いただしたり、口論してはいけません!