5人、10人、15人……フリー・インプロで人が増えると、音も動きも埋もれちゃう!
大編成の集団即興って、一体どうすればいいの?
複数人で行うフリー・インプロヴィゼーション──集団即興*。いろんな人・楽器が楽しめる、自由な即興の醍醐味でもありますが、しばしば、「この大人数の中で、自分は何をすればいいのか?」と悩ましい編成でもあります。
管弦打楽器、踊り、ヴォイス、電子楽器、……多様な人々が入り乱れ、複雑に動く集団即興。一体、どんなことを考えて参加すればよいのでしょうか?
*集団即興について明確な定義はありませんが、この記事では仮に5人以上で行う即興とします。
集団即興の難しさってなんだろう?
そもそも、集団即興の難しさはなんでしょうか?
答えはいたってシンプルで、舞台に立つ人が多いから。人が多ければ多いほど、耳も視界も、空間も埋め尽くされ、自分の居場所がなくなります。音量は大きくなるし、音数は厚くなるし、他人の動きも混雑し、物理的に舞台の上も狭くなってしまいます。
聴いている/観ている人も同じです。同時に鳴っている音・動いているものが多すぎると、情報を処理しきれなくなり、ぼんやりとした印象を受け取りがちです。映画館の大スクリーンは迫力に満ちていますが、目がチカチカしたり、一度の観劇では細かい描写に気が付かなかったりしますよね。
即興する人にとっても、それを聴く/観る人にとっても、情報過多になりがちな大人数の集団即興。ここに参加する人は、実際、どんなことを考えればよいのでしょうか?
1. いちばん大事なこと「出・はけ」を意識しよう!
まず初めに、いちばん大事なことを書きます。多人数編成の時は、「出・はけ」を意識しましょう。ずっと音を出したり、踊り続ける必要はありません。ときどきは休んで、他の奏者に任せましょう。
「自分の居場所がない!」と思ったら、一旦パフォーマンスをやめて、状況が変わるまで待ちましょう。これは大編成の時だけでなく、デュオやトリオの時も同じです。
ステージの上にいると「何かしなくちゃいけない!」「何もせずにはいられない!」と思いこみがちですが、そんなことはありません。
例えば作曲された楽曲でも、ピアノソロのパートがあったり、ヴォーカルなしでインストだけのパートがあったりします。演劇なら、4人の役者がいても、その4人が必ずしもずっと喋っているわけではないし、ダンスなら、ソロのパートもありますよね。
ステージ上にいる人は、必ずしも常に何かをしているわけではないのです。何もしていないように見える人がステージにいることも、とても重要です。
もっといえば、「今、自分は何もしていませんよ」「しばらく何もする気はないよ」と強く周囲に伝えたければ、ステージから降りたっていいのです。
2. わずかな隙を見逃さない!一瞬の空白に動こう
どんなに大量の音・動きで埋め尽くされても、必ずどこかに「空白」ができます。その一瞬を狙って、えいっ!と音を出したり、動くのも手です。
そのためには、ともかく周囲の音・動きをキャッチし続けることが大事です。目で、耳で、あらゆる感覚を総動員して、「ここだ!」という瞬間を捕まえましょう。
こればかりは経験が必要かもしれません。ピアニストであれば指の動き、管楽器であれば息の切れ目、ダンサーであれば指や脚や顔や身体の向き。いろんなところに「空白」のヒントはあるはずです(慣れるまで難しいので、すぐにできなくても落ち込まないでくださいね)。
3. でも、いつまで経っても「空白」ができないんだけど……
いつまで経って同じ人同士でパフォーマンスしていて、状況が変わらない……そんな時もあるかもしれません。特に音の小さい楽器を鳴らす人は、なかなか気づいてもらえないことも。
そんな時は、立ち位置を意識しましょう。
例えば、自分以外の3人が、ステージ前方でパフォーマンスしてい流とき。彼らより手前に出てみたり、彼らの視線が交わるところに邪魔するように立ってみましょう。
それでも場が変わらないようであれば、前に出たその場で、ただ立ち尽くしてみたり、座ってみたりしてみましょう。
ポイントは、音を出したり、踊ったりしないことです。ただ、毅然とした態度で自分の存在を示します。もしここで音を出すと、既に出来上がっているパフォーマンスに乗っかる形になってしまい、ますます、今の状況が続いてしまいます。
「もうそろそろ私の出番だよ」と、ちょっとやりすぎなくらい態度で示してみましょう。それでもダメ? 止めてくれない? うーん、それはもうあなたの責任じゃないので、舞台を降りてサヨナラ! また次の機会!
4. 複数のグループが、別々に共存する──10人以上の大世帯の場合
集団即興の中でも、10人、15人、20人以上の場合を考えてみましょう。こうなってくると、誰かがリーダーシップを取ろうとしてもまとまりきらないでしょうし、音の空白を捉えるとか、そんな余裕もなかなかありませんね。
いくつか、ヒントはあります。まず「出・はけ」を意識して、次から次へ、入れ替わり立ち替わりパフォーマンスする形。ちょっとしたメドレー形式のようで面白いですね。
ただこれだと、たくさんの人が同じステージに上っている、せっかくのシチュエーションを活かしきれていないかもしれません。
そこで発想を変えてみましょう。全員が同じステージに乗っているからと言って、必ずしも、全員で同じステージを作る必要はありませんよね。
例えば、今、15人のメンバーが、同じステージに上って、同時に音を出したり、動いていたりするとします。彼らの即興は、一見するとてんでばらばらです。ところがよく観察すると、大まかに3つほどのグループに分かれていることに気が付きました。
リズムを刻んでいるグループ。ノイズ的な音で掛け合っているグループ。身振り手振りでやりとりするグループ。
この3つのグループを無理やりまとめようとするのではなく、3つのグループがそれぞれ別個のパフォーマンスを発展させていったら、どうなるでしょう?
同じ舞台上なのに、異なるパフォーマンスが共存する。そんな状況が自然に生まれてしまうのも、即興の面白さのひとつ。
もし、演(奏)者がステージ上だけでなく、客席や、舞台裏や、2階席にいたらどうでしょう。時には、グループ同士でメンバーが入れ替わったり、メンバーが増えたり減ったり、二つのグループの間に立つ人も現れるかもしれません。
ひとつにまとまらないこと、みんなが同じになれないことを受け入れる。それが、フリー・インプロヴィゼーションで大事なことなのかもしれません。
5. 集団即興で考えるポイント・まとめ
それでは、集団即興で考えるポイントをおさらいして、今回の記事を締めくくりましょう。
- 出ずっぱりの必要はない。「出・はけ」を意識しよう!
- わずかな「空白」を狙い澄まして、渾身の一手を!
- 必要であれば、音や踊りではなく「態度」で示そう!
- 10人以上の大編成では、異なるグループの共存も面白いかも?
この記事が、フリー・インプロヴィゼーションで悩む人の助けになりますように。