“自由な即興”といえど、ある程度パフォーマンスを繰り返していると、多くの人が突き当たる壁があります。それは、マンネリ化です。
- なんとなくいつも同じ展開になってしまう
- なんとなく手癖で弾いてしまう
- なんとなく似たようなやりとりになってしまう
などなど。どんなプレイヤーにもそれぞれ好みや傾向があり、それが個性を形作っています。
とはいえ、いつもいつも同じような展開になってしまうと、ちょっと飽きてしまうかもしれませんね。そんな時、このマンネリ化を解消する手段はいくつかあるので、例を挙げてみましょう。
①いろんなパフォーマンスを見る/聴く
まずおすすめしたいことは、ジャンルを問わず様々な表現分野のパフォーマンスを見に行くことです。
さまざまな国・地域の民族音楽、ライブ、展示会、インスタレーション、ラップ、クラシック、朗読会……それこそなんでもアリです。
日常に潜む何気ない動きや音をキャッチすることも同じ。もしあなたが普段「ドレミファソラシ」の音階に馴染んでいるなら、西洋音楽ではない音楽の公演を見に行ったり、ラップの即興性や発声法を目の当たりにしてみるのはいかがでしょうか。
自分が普段馴染まないパフォーマンスを体験することで、ただ表現を学ぶだけでなく、その価値観や思想からも刺激を受けるはずです。
普段なにげなく見落としているポスター、町内掲示板のチラシ、SNSの広告に目を光らせましょう。そして、「これは!」と思ったものは、どんどん真似してみましょう。文化芸術の経済活動も回すことができて一石二鳥です。
②いろんなプレイヤーと即興する
「②いろんなプレイヤーと即興する」。これを実践するには、フリー・インプロのセッションやワークショップに参加することをおすすめします。
実は日本全国各地で、フリー・インプロヴィゼーション(即興演奏)のセッションが開催されています。はじめは緊張するかもしれませんが、そこはフリーのインプロヴィゼーションをする場所、(お店の機材や他人に危害を加えなければ)自由にいろんなことを試してみましょう。
そして、もしあなたが積極的に即興を深めていきたいのであれば──ぜひ、ライブなど本番を作って、人前でパフォーマンスすることをおすすめします。
よく見知った仲間・友人同士の輪で行う即興と、見知らぬ観客もいる前での即興は、まったく違うものになるかもしれません。自分の癖、会場の空気、パートナーの呼吸……普段見過ごしていたいろんなことに気が付くかもしれませんし、あるいは、「なんだいつもと変わらないなあ」と思うかもしれません。
分野を問わずさまざまなプレイヤーと即興すること。そして、彼らと本番でパフォーマンスすること。いずれも、きっとマンネリ化を打破するきっかけになるはずです。
③ひとりで即興を練習する
もっと手軽に、あるいは自分自身と向き合いたい──ということであれば「③ひとりで即興を練習する」をおすすめします。
たとえばこんな練習があります。
- 30~60分間、ひとりで即興する
- 音や方法を限定して(五線譜の音なら『ド』だけ使う、発声なら『あ』だけ使う、など)で即興する
などなど……
時間を決めて即興する
10分、30分、1時間。誰の手も借りず、自分ひとりで即興し続ける。自分の中にあるいろんな引き出しを出したり、しまったり、あるいは閉じたままにしたり。
もし途中で力尽きてしまうなら、その引き出しが──ボキャブラリーがすこし足りていないのかもしれません。もしかしたら体力的・集中力的な問題かも?
また、このときできれば、自分が何をしていたのか覚えておくことをおすすめします。それが難しければ録音・録画をしてみましょう。自分が無意識に行なっている癖が、まざまざと浮かんできます。
シンプルに時間感覚も身につきます。実際にライブなどで演奏する場合、こっそり時計を置いたり、壁時計を視界に入れる必要がなくなります。ただ、筆者は客席から見えないところに時計を置くことが多いです。
音や方法を限定する
演奏であればひとつの音高だけを、身体表現の人であれば手先だけを、あるいは表情だけを……というように、即興に用いる手段をひとつに絞ります。
たとえば「ド」の音だけだったら、どの要素で、どんな考え方で変化をつけるのか?
たとえば手先だけを動かすなら、どんなバリエーションが考えられるのか?
あえて極端に限られたなかで、即興をしてみましょう。「ド」の音だけでもこんな音色で変化が生まれる!顔の表情だけでもこんなにいろんなことができる!──などなど、普段見落としていた可能性にきっと気が付くはずです。ひとりではなく、だれかと一緒にやってみても興味深いかもしれません。
ex: マンネリ化を受け入れ、肯定する
ところでそもそも、即興におけるマンネリ化は、そんなに避けるべきことなのでしょうか?
自分や他人のインプロヴィゼーションがどんどんかたまって、煮詰まって、濁った先には、何が待ち受けているのでしょうか?
即興演奏のマンネリ化を突き詰めてゆくこともまた、面白いかもしれませんね。
終わりに
いずれも、共通しておすすめしたいことが、自らの気づきを書き留めておくことです。
これは即興に限ったことではありませんが、人間は、思った以上に考えていたこと・気づいたこと・思ったことを忘れてしまいます。どんなにすばらしいひらめきも、どんなに悲しいマンネリ化も、どこかにことばとして書き残しておかなければ、どんどん忘れていってしまいます。
もしあなたが即興において行き詰まっているのなら、ぜひ一度、自分自身についてメモ書きでもなんでも、書き連ねてみることをおすすめします。書き方はもちろんご自由に。