自分の心が動き、感じたことを描く──「ぱぷりか」岡本唯が目指す俳優の姿【後編】

劇団「時々自動」をきっかけに演劇の世界に飛び込んだ俳優・岡本唯(おかもと ゆい)さん。現在は劇団「ぱぷりか」で会話劇を中心に出演する一方、バンド「YKK」のヴォーカルや、即興パフォーマーとしても活躍しています。

後半では、岡本さんが鍛えたいという「お芝居の筋肉」、即興とお芝居のつながり、俳優・パフォーマーとして考えていることなどを語っていただきます。

演劇でもお芝居でも自由になるために──「お芝居の筋肉」

Photo:Kazutaka Monden

──「お芝居の筋肉」を鍛えたかった、とおっしゃっていましたが、お芝居の筋肉とはどんなものでしょうか?

岡本:楽曲を演奏するのに楽器演奏という技能が必要なように、お芝居には、お芝居をするための技能が必要なんですね。

大学を卒業してから4,5年くらい、時々自動に専念してたけど、「やっぱり、自分はお芝居がやりたい!」と思って。それでワークショップやオーディションに行ったら、びっくりしちゃったんだよね。お芝居に対して、時々自動では感じていなかった緊張、不自由さみたいなものを、すごく感じたんです。

相手役の捉え方、脚本の読解力、目線の技術、立ち位置や動線、セリフの伝え方……細かく言い出したらきりがないんですけど、それって、場数や稽古を積み重ねて、やっとつかめるものなんです。私はずっと独学で演劇をやってきて、お芝居の基礎を勉強したことがなかった。だから、このお芝居の筋肉をつけたら、いろんな演劇やパフォーマンスでもっと自由になれるんじゃないかと思って、「アップスアカデミー」という学校に通い始めました。

ぱぷりか『どっか行け!クソたいぎい我が人生』より
撮影:堀山俊紀

──時系列を整理すると、大学を卒業して、時々自動に何年か専念したあと、もう一度お芝居をしたいと思って「アップスアカデミー」に入られたわけですね。福名さんからぱぷりかに誘われたのは、このアカデミーに在籍中のことですか?

岡本:そうです。それで、ぱぷりかの公演が、学校の卒業公演と丸かぶりしちゃって、どうするかすごく迷ったんだけど……

卒業公演は芸能事務所の人が見に来てくれるし、オーディションやチャンスに繋がるかもしれない。でも、福名が誘ってくれたぱぷりかをちゃんとやる方が、自分にとっては大事に思えて。それで、卒業公演には出ずに、1年目で休学して、そのまま修了っていうかたちをとりました。1年次で基礎は習ったから、あとはもう自分でやるだけだと。

「即興とお芝居は同じ」。古い友人との再会をきっかけに、即興の世界へ

インプロ・りぶる『作品 #2』公演より

──即興パフォーマンスの世界へ足を踏み入れたのも、「アップスアカデミー」在籍中のことでしたよね。

岡本:「アップスアカデミー」の教育方針は、ざっくり言うと、「決められたセリフをただ決められた筋道で言うのではなく、舞台で本当に感じたことの反応としてアクションする」というものでした。私が目指す面白いお芝居は、そういう、心の動きが伴うお芝居なんじゃないか? そう思っていたところに、*カトコの即興演奏がピピッと繋がりました。

*カトコ……加藤綾子。ヴァイオリニスト。本記事のインタビュアー。岡本とは中学時代の同級生で、2022年頃に再会。協働企画『作品』およびユニット『てて』を立ち上げる。

──演劇といえば、「インプロ(劇)」というジャンルがあるように、即興的な手法との関わりが深い分野でもあります。アカデミー以前にも、即興的な表現を意識したことはありましたか?

岡本:即興との初めての出会いは、時々自動のプロジェクトでした。ジャズみたいにコードが決まっている中で、出演者が自分たちのフレーズを出し合って音楽にしていったんです。

でも私たちには、専門で音楽をやっている人たちみたいなフレーズの持ち駒はない。「じゃあ時々自動の持ち駒を作っちゃえ!」ってことで、おびただしい量の短いフレーズを量産したんです。その中からおもしろいものだけ残していって、みんなで覚えて、「××の5番!」って言ったら、そのフレーズを出演者それぞれの楽器でやるっていう。この劇団にしかできない、すごく過酷なことをやってました(笑)

──それはすごい! そんな量を覚えて即興するのは、音楽家でも大変だと思います(笑)

岡本:ただ、そのプロジェクトは、あくまで用意されたフレーズを演奏するものでした。本当に即興的なことを意識したのは、カトコに会ってからじゃないかな。彼女の即興演奏を聴いたり、あちこちのライブを見に行くうちに、「演劇でやってることも即興じゃん!」って気づいて興奮したなあ。

私がなぜ会話劇に感動するのかというと、「この人がこう言ったからこう言う」「この人に見られるとこんな気持ちになる」みたいなことを、体験できるからなんですよね。それに近いことが、即興でも起きてるんです。

Photo:Kazutaka Monden

もっと自由に、自分の感覚を手放して。「俳優は自分の外側に世界を描く仕事」

──岡本さんを見ていると、即興でも演劇でも、エネルギッシュでナチュラルなパフォーマンスをする人だなと感じます。

岡本:そうなんだ! 自分では、すごくテクニックがあるわけじゃないし、不器用な俳優だと思ってます。自然 “っぽく”見せることができない。だから、自分で本当に「自然だ」と思えるとき以外は、すごく不自然になっちゃう。もう見てらんないぐらい(笑)

──そうすると、お芝居はかなり大変ですよね。いろんな役を演じなくちゃいけないわけで。

岡本:うん、大変(笑) 俳優って、自分の外側に世界を描く仕事だと思うんです。私がどう感じているのかは、実は大事なことじゃない。音楽の人も、楽器を弾いたら、音がファンっ……って外に飛んでいって、何かを描くわけじゃないですか。

先輩の俳優さんから言われたことがあって。いちどお芝居が始まったら、物語のジェットコースターが走り始める。決まったポイントは通るけど、そのとき実際にどういう感覚になるかはわからない。「何か気持ちが動いたらラッキー」くらいに思って、ただレールに沿って進んでいくんだよ……って。

だから、最近は諦めるようにしてるかな。「自分が本当に悲しくなれなくても、このときはこの人のことを絶対に見つめよう」みたいに決めて、物語が進んで行くようにしてるんです。いままでは自分の感覚を大事にしてきたけど、それだけじゃないって、やっとわかってきた。もっと遊んでいいし、背負いすぎなくてもいい。自分の外に何を出してるかが大事なんだよね。それでも、自分の実感がともなう表現の方が面白いんじゃないか、って思っちゃうんだけど。

演劇引力廣島『跡先』より
撮影:奥村洋司

──自分が今感じていることと、その場で起こっていることのズレは難しい問題ですよね。即興でも同じように感じる場面はありますか?

岡本:即興はそれが顕著かも。お芝居は、セリフを言ったり動いてさえいれば、物事が進んでいく。周りのことをキャッチしないで、1人でお芝居しちゃったとしても。でも即興って、周りの音を聞けてないことがすぐわかっちゃうし、むしろ、周りを聴くことでしか進行していかないよね。

即興をやると、自分の中で手放せてない部分があることに気づきます。自分がどう感じてるのか、心の中で温めちゃうんですよね。周りとのズレが気持ち悪いときに、ただ1人で苦しむんじゃなくて、「こんなことしてみよう」って選択する余裕ができたら、きっと、自分が想像してなかったことが起きる。

自分のやりたいことと周りで起きてること、そのバランスの中で、何をするか。そういうことを考える余裕が、いまは欲しいかな。

インプロ・りぶる『作品 #2』公演より

面白い人たちにもっと出会いたい。岡本唯さん、今後の展望

──本日は興味深いお話をたくさん、ありがとうございました。最後に、俳優として、岡本さんの今後の目標や展望を教えていただけますか?

岡本:私は、「どこそこの舞台に出たい」とか「これぐらいの俳優になりたい」とか、そういうモチベーションがあまりない、だらっとした人間なんですけど(笑)

もっと面白いお芝居をして、自分が感動したり、なにかを発見したい。会いたい俳優さんもいっぱいいるし、会いたい作演出の人も、会いたいミュージシャンもいっぱいいる。面白い人たちにもっと出会えるよう、自分が思う、面白い俳優なりパフォーマーなりになりたいかな。

誰かを救いたいとか感動させたいとか、そういうことが全然言えないんだよね、私は。一緒に感動できたらいいな、みたいな感じです。

──とても素敵な目標だと思います! 本日はありがとうございました。

岡本:こちらこそ、ありがとうございました!

Photo:Kazutaka Monden

(取材・文:加藤綾子)
(サムネイル写真:門田和峻)