いわゆるクラシック音楽と呼ばれる、「譜面を読んで演奏する」ことが当たり前な分野に取り組む人ほど、フリー・インプロヴィゼーションを聴いたり、実践してみてほしいと思います。実はこれら2つの音楽には、意外な共通点があります。
【はじめに】フリー・インプロヴィゼーションとは?クラシック音楽とフリー・インプロ① 五線譜の隙間にある表現
いわゆるクラシック音楽は、「譜面に書いてあることを弾く」ことが求められる、と言われやすい分野です。しかし、本当にそうなのでしょうか?
本当に書いてあることだけが求められるなら、100人いたら、100人がほとんど同じ解釈で、同じ演奏をするはずです。しかし実際問題、そうではありませんよね。ここで、2つの演奏動画を見てみましょう。
この2つの動画は、全く同じ曲を演奏しています。にもかかわらず、聞こえてくる音も違えば、奏法も違います(これはわかりやすいよう、かなり極端な例を選びました)。
楽譜通りに弾く、とはすなわち、正確なピッチ・正確なリズムで演奏するだけではないはずです。同じ付点四分音符でも、おなじ八分音符でも、おなじ「ド」の音でも、それをどう解釈するのか。
譜面なしに自分の表現を追求することができるフリー・インプロヴィゼーションは、その余白部分を育てることに貢献します。ボキャブラリーとか、表現の引き出しとか、言われるものです。
書籍や音源、師から学んだものだけではなく、ほかでもない「あなた」自身が、「あなた」のことばで話したいことはなんなのか?
それを見つけることは、譜面を読む上でも役に立ってくるのではないでしょうか。
クラシック音楽とフリー・インプロ② アンサンブルにおける“耳”を育てる
フリー・インプロヴィゼーションを実践してゆくと、デュオ、カルテット、オーケストラ──規模を問わず、アンサンブルにおける“耳”が育ちます。
フリー・インプロヴィゼーションにおいて、頼りになるものは自分たちの音と耳のみ。
「この音はどんな色?方向?感情?あるいはなにもない?」
「相手はなにをしようとしてる?相手は自分の音からなにをキャッチした?」
「私はこうしたい!それを相手に伝えるには、どうすればいい?」
いろんな人と何度も何度もセッションを重ねるうち、普段漠然と聞いている周囲の音、表現への感度がどんどん上がってゆきます。
初めのうちこそ「何をすればいいのかわからない」と思ってしまうかもしれません。ですがそんなときこそ、シンプルに集中して、他の人の音を聴いてみましょう。本当の“耳”を使ってみましょう。さながら語学学習のように。
それはきっと、譜面をみながら演奏しているときに役立つはずです。
クラシック音楽とフリー・インプロ③ 本番、ステージ上で生まれる即興
練習やリハーサル通りにいく本番はない、というのもよく聞く話ではあります。では、なぜ練習やリハーサル通りにならないのでしょう?
緊張はもちろん、会場の人の入り具合、温度の変化。あるいは本番直前の思いがけないトラブルで、進行が遅れる・早まる。さまざまな理由で、本番の演奏は変化します。
この変化は、いざ本番で音を鳴らすまで、何がどう変わるのかわかりません。突然共演者が走ったり、思いがけないところで指がもつれたり、いつもなら何気なく演奏しているところでものすごい伸び縮みが起きたり……そう、それはほとんど即興です。
そのとき、瞬時に「いま、何が起きているのか」キャッチして、「いま、自分はなにをすべきか」考え実行する。この反射神経を鍛えるのに、フリー・インプロヴィゼーションは非常に役立ちます。
もっと言えば、何があっても動じない肝っ玉が身に付きます。ステージに立つ人にとって、そんな肝っ玉は魅力的ですよね?
最後に: フリー・インプロヴィゼーションを実践したくなったら?
さて、どうでしょうか。フリー・インプロヴィゼーションをやってみたくなりましたか?そうしたらぜひ、こちらの記事を読んで、実際に音を出してみてください。
【実践】自由に音を出す即興演奏、フリー・インプロヴィゼーションをやってみよう!
ちなみに、このフリー・インプロヴィゼーションを実践すると、「あれ、思ってたのと違うなあ?」と感じる人もいるかもしれません。コンチェルトのカデンツァとか、対位法的なかっこいい即興演奏ができるようにならないじゃないか!と。
そんな人には、メディア「ON-KEN SCOPE 音楽×研究」に連載されている記事「音楽における即興表現」をおすすめします。ここには、“西洋音楽的な”即興演奏──主題を使った即興演奏、対位法的な即興演奏などのエクササイズが詳細に掲載されています。