即興ピアニスト・照内央晴(テルピアノ)さんにロングインタビュー!後編では、照内さんが実際に即興をしていて思うこと、感じたこと、そして今後の展望を深掘りしてゆきます。
即興ワークショップで感じたこと、身体表現・ヴァイオリン・ドラムなど異なる共演者との即興について、長年、即興を続けてきた照内さんが考えることとは……?
即興ワークショップについて – 赤坂『カーサクラシカ』でYUKARI氏と
──場所の流れで行くと、ホールやサロン、いわゆる“クラシック”的なところで弾かれることはありますか?
照内: あんまりやったことないんじゃないかな。自分がライブハウスと言われるところでやってきちゃったんで、若干敷居が高いな、と思っちゃうところはある。でも、だからといってやりたくないわけじゃないし、いいところがあればやりたいなあって思う。
──赤坂『カーサクラシカ』(*ライブハウス。クラシック音楽の公演が多いが、さまざまなジャンルの公演も)も何度かやっていらっしゃいましたよね。
照内: 『カーサクラシカ』は、最初「即興やらせてくれるかなあ、どうかなあ」と思いながら頼んでみたら、引き受けてくれて。初めは踊りの人と(ライブを)やったかな? 「赤坂で即興いいじゃん」と思って。笑
で、だいぶ経ってから、即興のワークショップも『カーサクラシカ』でやろうって。フルーティストのYUKARIさんがやってくださるので、僕もちょっと企画させてもらった形です。ただ、僕は指導はさっぱりわかんないから、内容はYUKARIさんにお任せしましたね。
──その時の参加者は即興を知らない人たちでしたか?
照内: やってる人もいたし、全然そうじゃない人も少しいたかな。
──照内さんとしては、ワークショップのようなものは、機会があればまたやってみたい気持ちがありますか?
照内: 企画に関係するのは全然したいんだけど、僕自身が講師でやるのはさっぱり無理、ダメなんで。笑
YUKARIさんの時は、演奏だけじゃない、身体を動かしたりする時間があって。だから、僕も全然できないことがあったんですよ。演奏じゃないことになると途端になんもできなくなるという。笑
僕は多少できることとできないことの差が、すっごいはっきりしてるんですよ。基本ものすっごい不器用なんだよね。だからまあ、本当、即興ができてよかったなあ、って思いますよ。
でも、そういう人もいると思うんですよ。「なんか」しかできない人。ほんとにそう思ってますよ。即興だけでも夢中になれて本当によかった。自分の何かが、こう、表せるものがあるわけですからね。本当によかった。自分でよかったよかったって言ってるけど。笑
──私も嬉しいです。照内さんが即興やっていてくれてよかったです。
照内: それがきっかけですもんねえ。笑
視覚は自分を助けてくれる – 視覚で受け取る即興の面白さ
照内: ワークショップの話で行くと、カナダ・バンクーバーのリサ・ケイ・ミラーさんっていう、即興もやる作曲家の方を招いて、即興ワークショップをやったんですね。リサさんとは『公園通りクラシックス』で2台ピアノもやらせてもらったんですけども。ここ5年くらいの話だったと思います。
リサさんのワークショップも、マリンバ奏者の方波見智子さんと共同主催でやりましたね。あの時は20人くらい集まったんじゃないかな。なんていうのかな、ある流派の師匠というか、一家言あるみたいな人も来てくれて。あれはすごかったなあ。
リサさんの時も、音以外に関することをやってくれていて。細かなことは忘れちゃったけど、印象に残っていますね。
──確かに、楽器を演奏する私たちはどうしても音にフォーカスしがちですね。照内さんも、音にフォーカスして受信して発信しますか? 例えばサックスの人となら、その人の身振りや表情よりも、音に反応して作ったりする?
照内: うーん、やっぱり音の人とやるときは音が強いよねえ。でもそれ以外がないのかっていうと、そうでもないと思うけど。
──あんまり、演奏中は共演者を見てはいないですか?
照内: これでも前よりはみてる。前はもっと閉じ気味だったんだけど。なんでもう少し見るようになったかというと、見ないとやっぱりね、なんか、つまんない。いくら音が世界と言っても。
やっぱり視覚によって「今、やってる」って感じることが、いっぱいあるわけじゃないですか。音の世界にいくら浸っても、音には入れるかもしれないけど、「あの人何やってるのかなあ」って見えることで面白い、って思えることが、多い。面白いですよ。加藤さん気合い入っちゃってんなーとか。笑
──なんか踊ってるなー、みたいな。笑
照内: そうそうそう。笑 やっぱり視覚もある方が数倍楽しめますよ。ある時期から、視覚は自分を助けてくれる、エネルギー的にも鼓舞してくれる、と思うようになりました。
その時間を味わう、ってことの中に、視覚もすごくあるなあって。ただ、確かにずっと眺めてやるってことはないかもね。ずっと目を離さないってのは、俺にはできねえなあって思ってますよ。笑
今年は身体表現の人との即興も少し増やして
──「見る」といえば、舞踊や身体表現の方との即興ではいかがですか? やはり相手の動きを見て合わせたりしますか?
照内: 楽器演奏の人よりは見るかもしれないけど、そこまで見て合わせるって感じではないかなあ。
──例えばタップダンスの吉田つぶらさんとやっていらっしゃる時は、何から情報を得たり、あるいはどうやって仕掛けたりなさっていますか?
照内: つぶらさんの場合は、かなり音寄りだからね。視覚的な情報も受け取ってるけど、かなり音的な感覚でやっていると思う。
舞踊とかダンスだと……やっぱり、まだ難しかったりする。それなりの人とやればそれなりにはなるっていう感じはあるんだけど、じゃあ、そこから先はどうなんだっていうのは、僕もなかなか踏み込めてなくて。僕はそれを「言語が違う」って思うんだけど。
──舞踊や身体表現の人とは、積極的に組んでいらっしゃいますか?
照内: 一時期結構ありましたよ。今年もちょっとそういう機会がありそうです。
前は、しばらくお休みしてたんですね。(身体表現との)即興で何を持って「合う・合わない」、「良い・悪い」っていうのか、なかなかわかりづらいんですよね。音ならわかるのかって言われると困るけど、でも音の方が「ああよかったんじゃないか」とか、自分で判断がしやすい。踊りの人となると、そこが難しいんですよね。
──今年から身体表現の人との即興が増えるというのは、やはり意識してらっしゃるでしょうか?
照内: いや、少し増やそうかな、ってくらいです。トライしてみようかなっていう。やることで何か「こうだ」って掴みたい、ってのはありますよね。小さくてもいいから、確かな感触というかね、やってく中で感じたりとか、そういうのはありますね。何でもかんでも掴めない方がいいのかもしれないけど。笑
ヴァイオリンとの即興について
照内: ずいぶんあっちこっち話しちゃったけど、大丈夫? 笑 ……加藤さんとも、これだけねえ、だいぶ濃いライブをいつもして。
──ありがとうございます。照内さんとのライブは、いつも濃いものにしたいと思っているので。笑
照内: ああ、ありがたいです。初回は神保町『試聴室』(*東京・神保町のライブハウス。即興や現代音楽系のイベントが多数)だったっけ? あれがすごく良くて。
もちろんそれ以降も色々あるけど、やっぱり初回がいいって大変なことですよね。ある意味お互いが持っている一番いい部分が、うまくいけばスッと出てくる。そこから紆余曲折して、お互い色々追求できる感じになってきた気がするし。
──そう言っていただけると嬉しいです。
照内: お互い持ってるものが合わさって、いいものができるとね、いいよね。
僕がドラムやパーカッションの人とよくやるのは、ある程度和声とかやりたいようにやれるから、というのもあったんだと思うんです。でも、加藤さんとか喜多直毅さんとやると、和声的な音楽からアウトするにしても、そこで馴染む・馴染まないという操作は必要なので、やっぱり鍛えられますね。ドラムの人とやるのとは違う神経が少し働くかなあ。
──照内さんにとって、管楽器とヴァイオリンとの共演を比べてみると、どんな違いがありますか?
照内: 管楽器とヴァイオリンで比べると、やっぱりヴァイオリンってこう、なんだろう、……合わない時は「合わない」って感じがはっきりするかもねえ。クラシック系の楽器っていうイメージなのかなあ。
──確かに、ヴァイオリンは何をやってもヴァイオリンって感じはしますね。
照内: だからやっぱり、その「ヴァイオリン」っていう音の質感とかワールド? とやる難しさ……っていうとあれだけど、何かあるような気がするなあ。
──音量の問題もあるかもしれないですね。
照内: そうね、でも、(一緒に即興やるときは)結構頑張ってくれてるよね?
──そうかもしれないです。笑
照内: 笑 でも、やっぱり音の質感なのかもね。ヴァイオリンと「なんかこれあわないな」って思う時は、こっちもよほどの確信を持っていないとやりづらいかもしれない。管楽器の方がもうちょっと緩くてもいいかも。サックスとやっててちょっと違ってても、まあ、なんとかなるかな〜って。笑
──なんにも考えずに弾いていました……すみません。笑
照内: いや、いいんじゃない。笑 それはピアノ側から思うことなのかもしれない。
──その「合わない」感覚も、グッドマンのマスターがおっしゃってたみたいに、これはこれで大事にしていくのも面白いかもしれませんね。
照内: うん、うん、うん、そうだね。本当それはそうだと思う。
──どこかで分かっちゃったら、もう戻れませんものね。笑
照内: そうだね。笑 ヴァイオリンで密にやってるのは加藤さんと喜多さんだけだけども、ヴァイオリンという楽器の音にピアノがどう関係しているか、っていうのは、結構、神経を使うものかもしれないです。悪い意味じゃなくてね。
50歳という節目を迎えて、今後の展望 – アコースティックなピアノの中で追求していきたい
──では最後に、照内さんの今後の目標や、音楽活動について展望をお聞かせください。
照内: なんかね、「できないことは悪いことじゃない」って話と矛盾するみたいなんですけど。今、ちょっと自分のアプローチが頭打ちかなって思うところもあるんですよ。だから、やっぱり学ぶことが必要かなって。緻密な何か。
いくらフィーリングと言ってもね、勢いだけでは限界があることも結構あって。より良いものを作るんだとしたら、うーん、もうちょっと、あんまり好きじゃない勉強も必要なのかなと。あんまりその方向に行きすぎたくないなって思いもあるけど。
──なるほど。以前、阿佐ヶ谷『ヴィオロン』のソロ・ライブでも、クラシカルな小品を演奏されたりしてましたよね? それもその一環でしょうか?
照内: あれはそこまではいかないですけどね。笑 でもやっぱり、自分にとってこれだ!っていう響きを、もうちょっと掴みたいなっていう。その辺り納得いかないところが結構あったんですね。
──なるほど。例えば今後の選択肢に、電子的なキーボードを演奏してみるとか、ピアノにマイクなどで音響効果を加えるようなことはありますか?
照内: マイクは、音量を増幅するだけにしか使わないかなあ。多少、リバーブを自然につけるってことはあるけど、特別な機能をつけるってことはないよね。
──例えば、キーボードってちょっとチープな音が出るものがあって、それが返って味になっていたりするけれども、もしかしてそういうのが今後、照内さんの選択肢になるとか?
照内: それはあるかもね。でも、やっぱり(アコースティックな)ピアノに限定するからいいってことがあると思う。ピアノっていう中で頑張ろうとするから出てくるものがあります。
──あくまでアコースティックなピアノの中でできることを追求していきたいと。
照内: そうそう。以前は内部奏法なんかも勢いで結構やったりしてたけど、結局はピアノにトラブルを起こして、怒られちゃったりもして。
今でも内部奏法をやる時はやるけど、あまりそれに頼らないでどれだけやれるか、限定することで鍛えられることってありますよね。やっぱりすごくそれは大きい。ピアノって、それに応えてくれるだけのものでもあるし。やっぱりそう見たらピアノが好きなのかなあ。
──ピアノという楽器そのものに魅力を感じていらっしゃる。
照内: そうなんでしょうね。ピアノの響きなんかも好きなのかもしれない。いい感じで鳴ってくれるとすごく嬉しいし。
──そうすると、これからの照内さんの活動は、自分の中で緻密なものを追求したり、身体表現の人との何かをつかもうとしたり、何かしら目的に向かってゆく形になりそうですね。
照内: ああ、あんまりそういうタイプじゃないけど、そういう段階に入っていくのかもしれないですね。今年だけってわけじゃないですけども。
──ちょうど50歳という節目で。
照内: そうねえ、自分でもびっくりするけど。50歳になったら何か変えるってわけじゃないんだけど、滅多にない区切りの歳なので、多少思うところがないわけじゃないです。
まあでも、今の50って兄ちゃんみたいなもんだよね。笑 一昔前だったらあれですけど。
──そういえば、よく共演されている喜多直毅さんと同い年なんですよね。
照内: そうなんです。でも、喜多さんはね、貫禄がありますから。Wikipediaにもちゃんと載ってますから。
──あれ!そういえば、照内さんの項目、WIkipediaにないんですか?
照内: ナイナイ、ないですよ。もうちょっと活躍してから。笑
──では、60歳までにWikipediaの項目が作成されることを目標に。
照内: そうですね。笑 Wikipediaも、他人から見て、納得のいく活動をしているかどうかが一つの基準だと思うので。もうちょっとがんばります。
ご自身の音楽観や考えについて、言葉をていねいに選びながら、率直に語ってくださった照内央晴(テルピアノ)さん。
節目を迎え、焦ることなく、けれど即興ピアニストとして、着実に歩みを新たにされる照内さんの活躍を、今後ともお見逃しなく!
Sabu UNIT @新宿PIT INN
9/23(金)19:30 開演
於 東京『新宿PIT INN』
伝統あるライブハウス『新宿PIT INN』に、照内央晴氏が登場!豊住芳三郎氏(ドラム)率いる『Sabu UNIT』に出演します! 予約など詳細は照内央晴Twitterアカウントよりアナウンス予定。
照内央晴×加藤綾子 完全即興演奏デュオ
11/19(土)15:00 開演
於 神奈川県高津『小黒恵子童謡記念館』
一般 ¥3,000 学生 ¥500
【予約】
・電子チケット購入(Yahoo! パスマーケット)
・メール contact@free-impro.jp (インプロ・りぶる宛) *公演名『11/19即興デュオ』、お名前、人数をお書きください。
「インプロ・りぶる」主催公演に照内氏が出演!加藤綾子(ヴァイオリン)と11度目のデュオ、初のホール公演です。今回は、即興に聞き馴染みのない方も楽しめるようなトーク付き。学生の方はワンコインで入場できます。